2021年9月16日発売
長い間、理解されることがなかった対人マネジメントの原理
ドラッカーの様々なマネジメントに関する思索は、多くの日本人によって学習され、活用されてきました。しかし、彼の「対人マネジメント」の思索は日本人によって正しく理解されることなく、60年以上の年月が経ってしまいました。そして、長い間、大きな勘違いが日本の多くの企業や管理職によって維持され続けてきたのです。
古くて強いパラダイムの存在
このような現象を生んだ背景には、日本人管理職が有する「管理職を中心としたマネジメント」という強いパラダイムがあったことが挙げられます。彼の提起した「部下自身を中心に置いた自己統制のマネジメント」のパラダイムはあまりに革新的すぎて、多くの管理職はその存在を認知することさえできなかったのです。
欠如していたキルケゴール哲学への目配り
また、ドラッカーが提起した「自己統制のマネジメント」(セルフマネジメント)の背景に、キルケゴールの主体性の哲学があったにも関わらず、ドラッカーを紹介する人も学ぶ人も、キルケゴールに充分な目配りをすることがありませんでした。キルケゴールをある程度理解することなしに、ドラッカーの対人マネジメントを理解するのは難しいと言えます。更に、人間の持つ未熟なエゴイズムも、部下の自己統制のマネジメントの実現を遠ざける原因の一つとなりました。その他、様々な原因が重層的に日本人の誤解に影響をあたえてきたのです。
リモートワークで力を発揮するドラッカーの対人マネジメント
本書では、対人マネジメントに関する多くのドラッカーの言葉を紹介しています。そして、マネジメントのプロセスの各ステージに沿って、ドラッカーのビジョンを実現するための具体的活動例が紹介されます。この部下の主体性を尊重するマネジメントはリモートワーク環境で特に力を発揮するノウハウです。本書は、新しい時代に、新しい方法で部下達に影響力を与えていく必要のある管理職の皆様に、大きな参考になるはずです。
第1章 第一の教え: 主体性の力
・ドラッカーの原点、それはキルケゴールの主体性の哲学と独裁主義が生み出した人間の苦しみだっ
た
・統制管理の発想に支配され続ける人々
・パラダイムとパラダイムシフト
・パラダイムに支配された時、見えなくなってしまうもの
・十分に理解されなかったドラッカーが提案した新しいパラダイム
第2章 第二の教え: 対人マネジメントの新しいパラダイム
・「目標による管理と自己統制」でドラッカーが伝えたかった本当の意味
・いたる所で発見される、目的を見失い、暴走するマネジメント
・日本で生じた認識の錯誤
・「リモートワーク」を支える「目標による管理と自己統制」
・キルケゴールの「主体性の哲学」とドラッカーの「人間尊重のマネジメント」
・従業員の自己統制が生み出す組織へのメリット
・日本で実践されていた卓越したマネジメント: QCサークルに見る自己統制の力
・ドラッカーがこだわり続けたピープル・マネジメントの全体像
・自己統制のマネジメントの実現を阻む障害物
・障害物になっている私達の持つエゴイズム
・障害物になっている自己統制を実現させるために必要な活動の無自覚
第3章 第三の教え: 目標を設定するということ
・最も重要な管理職責任としての部下の目標設定の支援活動
・情報を共有しないで、部下に目隠しをつける管理職
・チームのビジョンや目標を伝えないまま、目標設定を指示する管理職
・ドラッカーが大切にしていた、チームの目標設定に部下を参加させるアイデア
・目標設定に絶対に必要な、革新に関わる要素
・ドラッカーが伝道した職務遂行を支える「目的の力」
・ドラッカーが重視した「必要条件」の明確化
・卓越した目標設定活動
・しばしば見られる目標設定ミーティングの機能不全
・目標設定面接の重要な目的としての部下の主体性とオーナーシップの喚起
・部下の強みと合致した仕事を与える
・野心的目標設定とほどほどの目標設定がもたらすもの
・戦略策定なき目標設定の背後にあること
・価値観の啓蒙: 大切な共通基盤を作り出す活動
・ビジョンの提示: 大きな方向性を浸透させる活動
・「リモートワーク」潮流への対応
・もっと時間を使って欲しい目標設定
第4章 第四の教え: 部下の職務遂行への影響力
・職務遂行中の部下へのマネジメント
・質の高いマネジメントに絶対に必要になる効率的な「観察」活動
・さまざまな方法がある「観察活動」
・「個別ミーティング」の重要性
・「リモートワーク」活用下での影響力の与え方
・部下の「自己統制」を支えるコミュニケーションのあり方
・コーチングの基礎を築いていたドラッカー
・地位の力で部下を指導しようとする管理職
・部下の問題から遠ざかり、無視しようとする管理職
・専門家としての満足感を追求する管理職
・指導が一回で終わると考える管理職
・戦略性のないコーチングが生み出す単なる傾聴活動
・戦略性が強すぎるコーチングが生み出す操作的なコミュニケーション
第5章 第五の教え: 職務遂行の振り返りの支援と評価
・部下の「フィードバック分析」を支援する
・ドラッカーが想定した評価活動
・貢献したことを認め、部下の価値と強みを確認する
・問題言動へのフィードバック
・コンプレックスではなく、学習を生み出すフィードバック
・ビックリ箱型の評価面接を行う管理職
・評価面接でひたすら話し続ける管理職
・評価面接で具体的フィードバックができない管理職
・イメージによる評価に支配される管理職
第6章 第六の教え: 部下を育成するということ
・育成のプロセスとしてのPDCA
・部下の強みを言動ベースで理解し、強化する
・権限委譲を前提にしている「目標による管理と自己統制」
・エンパワメントを理解し、実践する
・既成の枠組みや自分自身を超える人材を育成するマインドセット
・単一方法論主義を廃棄し、異なった状況に対応できる能力を身に付ける
・部下を「担当責任者」として扱うか、「アシスタント」として扱うか
・すべての部下を「アシスタント」として扱う管理職
・Y世代への対応ができずに衰退していく会社
・マネジメントの質の高さと女性管理職
第7章 第七の教え: 管理職に求められること
・管理職に求められる三つの資質:「インテグリティー」、「打ち砕かれたエゴイズム」、「責任を
持つ態度」
・一貫性としての「インテグリティー」
・倫理としての「インテグリティー」
・誠実性としての「インテグリティー」
・目標への妥協しない態度としての「インテグリティー」
・管理職に必要な「打ち砕かれたエゴイズム」
・管理職に求められる「責任を持つ態度」
あとがき
八木 優市朗 (Yuichiro Yagi)
マネジメント・コンサルタント。
米系のトレーニング・コンサルティング会社で、エグゼクティブ・ディレクター(取締役)、トレーニング開発部マネジャー、マネジメント・コンサルタント等を歴任。一般会社で は、米系自動車会社、米系保険会社、米系マーケティング・コンサルティング会社、米系ハイテクガラスメーカー等で 人事部長、トレーニング部長、人材開発マネジャー等を歴任。 専門分野はマネジメント、能力開発。
ピーター・ドラッカーとカール・ユングを専門的に探求しており、その両分野のエッセンスをマネジメント教育や人材開発関係の指導で活用している。
著書に、『ユングが教えてくれた リーダーシップと人格の高め方』(コスモス・ライブラリー)がある。
主に、コア・コンセプト・ラボラトリー・ジャパンを通じて活動している。
キェルケゴール協会会員
ウエスタンワシントン大学 経営管理学部修士課程修了(1990)